とも、それは承知しないの。前の男は、かうなつたのは自分が悪いんだから、過ぎ去つたことは過ぎ去つたこととして、どうしても一緒に、これから二人で生活の建て直しをしようつて、きかないの。後の男は後の男で、自分の方にその権利があるつて譲らないから、あたしは、もう、はつきり自分の考へが云へなくなつてしまふぢやないの。一方はまだ二十五で、一方はもう……たしか三十だわ。二人を並べると、あたしの気持は、十分、前の男の方に傾いてゐることはわかつてるの。
愛子  若い方ね?
悦子  ええ……。でも、さういふ気持を別にしても、その方が正しいんぢやないか知ら……?
一寿  (自分の珈琲を飲み干し)おい、折角のが冷めちまふぢやないか。
愛子  (黙つて、卓子に近づき、珈琲茶碗を取り上げる)姉さん、それだけの話?
一寿  なにをお前たちは、こそこそ話してるんだ?
愛子  秘密の話よ。パパは聞かなくつていいの。(姉の方に近づく)
悦子  興味ない?
愛子  そこまでは事件の筋道ね。スキヤンダルになるかならないかは、姉さんの態度ひとつだわ。
悦子  どうすればいいの?
愛子  あたしならつていふ返事はできるけど、姉さ
前へ 次へ
全70ページ中66ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング