ティ》は、舞台に於ては、遂に実を結ばなかつたのである。
 然るに、最近擡頭した一群の新作家は、悉く期せずして、前時代の最も致命的な欠陥を戯曲文学の立場から意識的に埋めようと努力してゐることは、たしかに注目に値するのである。
 これはなにも、これら新作家の才能を例外なく稀有なものだと推賞する理由にはならぬが、それぞれに専門家的な手腕と、稟質的な特色とを発揮して優に一家の風格を示し、且つ、何れも、日本人離れのした緻密な力作を提げて登場して来たことは、誠に前代未聞である。要するに、さういふ時代が来たのである。舞台の歩みは遅々としてゐるのに、やはり、文学に対する熱情は恐ろしいものだと思ふ。これから、わが戯曲界も、そろそろ世界的水準に達するであらうといふ見込がついて来た。
 私は、これまで雑誌に発表した自分の作品を、少しづつ纏めて本にすることをずつと習慣のやうに続けてゐるが、かういふ時代に、若い作家のより優れた作品が、あんまり世間の注目を惹かず、長く埋れてゐるといふ不合理を痛感し、更に忌憚なく云へば、かかる機運の到来を、誰よりも望み、若しくは誰よりも促進することに努力したといふ自負の念から、一に
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