天才の前では、少くともその意味を失ふ性質のものである。それは断るまでもない。
かくの如き戯曲界の現状に向つて、誰がどういふ批難を加へようと、その批難は常に真理を含んでゐると見られる。そこで喧々囂々、甲は乙の傾向を罵り、乙は丙の色調を貶し、丙は又甲の主張を嘲るに日もこれ足らざる有様である。
文壇の事情に通ぜず、また一個の定見を備へない世人の中には、殊に、新しい演劇に好奇の眼を向けつつある若きアマトゥウルの中には、自らその帰趨に迷つて、徒らに頭を悩ます連中がなくもないやうである。これは已むを得ないことには違ひないが、その結果は、新しい演劇に対する民衆の不信と軽侮とを生み、その発達進化の上に著しい障碍を齎すことは慥かである。
私は、自ら一つの立場をもつてゐる演劇研究者であり、殊に、意識的にも、無意識的にも限られた趣味に活きる芸術修道者であるから、期せずして我田引水に陥るかもわからないが、努めて公平な態度を持しつつ現代の戯曲界、並に演劇界の分野について、簡単なる討究を試み、主なる傾向の特色を明かにしたいと思ふ。
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一、北欧系。これはスカンヂナヴ
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