中途退場」その他、「大根引込め」式半畳はまだ生優しい方で、少し前までは、「焼き林檎」をぶつけるといふ念入りの不満表示法が行はれました。かういふ油断のならぬ、同時に、頼もしい見物を前において、西洋の俳優は、長年、正道的演技――つまり、現代の演劇を生んだ伝統――の鍛錬を経て来てゐるのです。
俳優をして、自分の本質的価値を知らしめるのは、演出者でも劇評家でも興行者でもありません。真に演劇を解する見物の、忌憚なく、同時に、成心なき舞台への呼応であります。
やうやく「本道」に一歩を踏み入れようとするわが新劇のために、否、わが新劇俳優のために、よき声援を与へられる意味に於て、先づ、及第点以上のものに対しては、多少「お世辞」でも、真の拍手を送つて、酬いらるること少き彼等をして、俳優たるの幸福を満喫させていただきたい。と同時に、落第点以下のものには、気の毒でも「焼き林檎」をぶつけ、再びそのままで舞台に現はれる無恥と大胆を繰り返させず、俳優たるの難きを肝に銘じさせていただきたい。これは、これからの新劇のために、諸君が与へ得る唯一無上の協力であります。(一九三三・二)
底本:「岸田國士全集22」岩波書店
1990(平成2)年10月8日発行
底本の親本:「現代演劇論」白水社
1936(昭和11)年11月20日発行
初出:「築地座 第十一号(一周年記念号)」
1933(昭和8)年2月25日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年9月5日作成
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