あら」に傍点]が丸見えだ。
女優D′[#「D′」は縦中横] 稽古不足なのね。
男優B あの稽古ならいくらやつてもおんなじさ。
男優C 芝居をしてる本人たち、あれで面白いのかしら……。
男優D 子供は玩具《おもちや》をやらなくつても遊ぶもんだ。
女優B′[#「B′」は縦中横] (また台詞の口調で)……「おゝ、神様、なぜあなたは、真実そのものに※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]をおつかせになるのです……」
女優C′[#「C′」は縦中横] ……「どうぞ、そんなお話はおやめ下さいまし。それよりも、お天気のお話を、花のお話を、あなた様のお髪《ぐし》やわたくしの帽子の話をいたしませう……」
男優E (次の部屋からはひつて来て)「さうだ、なんでもお前の好きなものの話をしよう。わしが生命《いのち》よりもいとしく思ふその清々《すが/\》しい微笑《ほゝゑみ》を消さずに、お前の唇のうへを通るものなら、それこそ、どんな話でも聴かう……」
女優D′[#「D′」は縦中横] まづいなあ。
[#ここから5字下げ]
この時、別の入口から、男優Aがはひつて来る。一同起ち上つて会釈する。
[#ここで字下げ終わり]
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男優A 今日の科目は即興劇……これで、今学期は終りだから、少しむつかしい問題を出す。今迄やつた即興劇は、大体筋書をきめ、役もいちいち振り当ててやつたんだが、今日は、筋書もないし役割もその場で自分が作るやうにするんだ。つまり、めいめいが勝手に「ある人物」になる。そしてお互ひに協力して筋を仕組んで行く。これは一定の目標がないだけに、各人の想像力を存分に発揮できるが、また一方、脈絡を失ふ恐れがある。そこは、できるだけ当意即妙の精神を働かして、ひと通り辻褄を合せるやうに注意しなけれやならん。
便宜上、二三、規定を作つておく。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
一、一人の人物は少くとも五分間舞台にあるべきこと。特別の場合を除き、十分間以上舞台に止《とゞま》るべからず。
二、ある人物が登場する時機は、それぞれ自由なるも、故意に舞台を混《ま》ぜ返すやうな出方は慎むべきこと。
三、必要に応じ、次の人物の登場を促すことあるべし。その合図として、余は咳払ひをなす。
四、時間は凡そ三十分。幕開き幕切れは、いつもの通り、自
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