欠くべからざるものは、「新鮮な感動」であり、この感動の極は、最も屡々「美しい人間的行為」であり、しかも、かゝる行為の多くは、前述の「誠」を土台とする、いづれかの道徳的内容をもつ「義理人情」の純乎たるすがただからであります。
「義理人情」の甚だ好もしい一つの特色は、私の考へるところでは、それが日本人の日常生活の隅々で、常に何気なく、ほとんど人の注意も惹かず、自分だけの心に満足を与へながら、極めてつゝましくそれが行はるべきものだといふことです。「行ふ」と云へば云ひすぎるほどの、そこはかとなき「心の動き」をさへ指すのであります。
 この「心の動き」は、わが古典文学の一つの精神である、かの「もののあはれ」に通じるもので、日本人の豊かな心情を物語つてゐますが、これは、同じ「義理人情」の、際立つた、激しい現れが、一面、古典文学のもう一つの精神である「ますらをぶり」に通じることをも示してゐます。
「文学」の話と結びつけて「義理人情」の一項を挟みましたが、もう一度本題に帰ります。本題は「趣味」といふことでありました。
「趣味」にはまだいろいろ種類がありますけれども、それはそれで他に参考になる書物もある
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