田君は、完成された俳優としての持味を遺憾なく発揮して、第一回公演の久保田万太郎氏の『冬』における下町の若旦那政吉、第五回公演の私の『牛山ホテル』の写真師岡、第十三回公演のモルナアルの『リリオム』のリリオム、第二十回公演の久保田万太郎氏の『大寺学校』の大寺三平、第二十二回公演のルナアルの『にんじん』のルピツク、及び第二十九回公演の内村直也氏の『秋水嶺』の山口等に好演技を示し、殊に後の三作における友田君の演技は当時最も秀れたものとして好劇家の絶讃を博したものである。俳優として友田君は非常に真面目で、芸術的良心が強く、そのための誤解なぞもあつたが、人間としての友田君は常識円満な温厚な理想的な紳士であつた。
 自分は今度久保田万太郎、岩田豊雄の諸君と『文学座』を組織し、幸ひに友田君夫妻の参加を得て今秋を期して大いに、新劇界のために精進すべく、諸般の準備を進めてゐたのであるが、友田君の召集のため一時延期の状態となつてゐた。今友田君を失つて『文学座』も大打撃を受けたわけである。しかし『文学座』の舞台に君の優れた演技を見られない事は非常に淋しい事ではあるが、一方君としては御国のために華々しく勇敢に戦
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