だて)なに、あの音は……。
桔梗  (眼を据ゑ)なに、あの草の中で光るものは……。
女郎花  (悸えて)蛇よ!

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(みんな、身をすくめて、眠つたふりをする。そこへ、ふらふらと、蛇が現れる)
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蛇  (溜息を吐く)おれはやつぱり駄目かなあ。あの肩の上を一度逼へばいいんだ。それが、どうしても、おれには出来ない。もう一度、あすの晩、行つて見よう。もつと、静かに窓をあけなくちや……。

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(姿を消す)
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女郎花  (半身を起し、蛇の去つた方を振り返りながら)なんて気味の悪い奴だらう。独言なんかいつて……。
桔梗  もう行つちまつた……?
女郎花  何か変なこといつてたわね。
桔梗  さうね。
女郎花  こうろぎさん、出鱈目ばつかし……。
芒  どうだつていいぢやないの、そんなこと……。あたし、眠るわよ。
女郎花  さうすると、お嬢さんは、あしたの晩……。
芒  ねえ、ちよいと、もう黙つて頂戴よ。あしたになつたらわかるぢやないの。

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(長い沈黙)
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少女の声  まあ、あんたは、どうしてさう暴れるの。駄目よ。そんなに騒いだつて……。何処へ行かうつていふの……。あら羽根が折れるわよ……。お待ちなさい。そんなに火のそばへ行きたいの……。どら、そこは硝子だから、はひれないのよ。馬鹿ね、あんたは……。

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(長い沈黙)

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さうれ御覧なさい。痛かつたでせう。さ、もうあかりを消してよ、あたし、寝るんだから……。

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(長い沈黙)
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女郎花  お嬢さんが寝るなら、あたしも寝よう(横になる)
桔梗  御覧なさい、芒さんは、もうぐうぐうよ。
桔梗  どうでせう……あんた、足が冷たくはない……? あたしの足、こら……一寸、さわつて御覧なさい。まるで石みたい……。
女郎花  あんたの足は、いつでも冷たいのよ。今夜だけぢやないわ。
桔梗  さうか知ら……。(頭を払ひながら)いつの間に
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