題になりました。みんな、その序文を早く見たいもんだつて云つてゐました。なにしろ、アナトオル・フランスが「ラ・ギヤルソンヌ」の序文を書いたのと、丸で訳が違ひますからね。
プルウスト  …………。
モルビエ  われわれの仲間は、ジャック・グランジュといふ男を、文人としてもですが、殊に、画家としてはまるで認めてはゐないんですからね。社交界に顔の売れた男としてなら、誰でも識つてゐます。なるほど、大家の肖像を可なり描いてゐるといふ話ですが、それだけで、芸術家の仲間入りは出来ませんからね。バレス、ハアディイ、ジイド、ジャム、それから、プルウスト…………。
プルウスト  (眉を寄せる)
モルビエ  誰が、その肖像を真面目に批評しました。彼がさういふ得難い機会を捕へたといふのは、畢竟、彼が子供の時、偶然、ドガのモデルになつたといふ事実と同じです。おまけに、彼の小説といふやつをお読みになりましたか。「天使がなんとか」つて題の…………。僕も読んではゐませんが、愚劣なもんださうですね。
プルウスト  (また顔をしかめる)
モルビエ  (それにかまはず)今度出るつていふ「文字による肖像」ですか、内容は、断片的
前へ 次へ
全23ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング