女性へ 1
岸田國士

 私はこの事変以来、全日本の女性の祈願を日夜、胸の底に聴き、彼女たちが、歴史上いまだかつて見ないこの民族の大試煉に堪へる力のみが、やがて祖国日本を救ふであらうと固く信じてゐるのである。
 一国の政治が男子の手に委ねられてゐるといふ見方からすれば、女性は悉く被治者の地位に立つものゝやうであるけれども、さういふ意味の政治は、今日誰の眼にも行きづまりが感じられ、日本は将にかゝる政治の支配から立ち直らうとしてゐるのである。すなはち、万民翼賛の新政治が、われわれの大きな希望をはらんで生れ出ようとしてゐる。
 小は一家の雰囲気から、大は社会の風潮に至るまで、女性のこまやかな心情を以て、これを「あるべき姿」に導くことは、今をおいて他に機会はないやうに思ふ。
 人心の荒廃は、日本の未来を何よりも暗くするものである。動乱のなかに、混沌のなかに、静謐と調和を求め見出すこと、そして、日常生活の物質的脅威を超えて、精神の豊かさを飽くまでも保つこと、これが日本女性に課せられた絶大な任務である。
 ともすれば目前の事態に狂奔しがちな男性の傍にあつて、われわれの子孫に残すべき心の糧を築いてお
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