面もちで応へる。二人は、それだけで、この共通の大きな損失について同じ感情を解し合ふ如くであつた。
十二※[#「土へん+于」、第4水準2−4−61]の港へ着く。
数百万貫といふ塩の袋がうづ高く岸の広場に積んで並べてある。壮観ともいふべきこれら小山の連続は、ところどころ黒焦げになり、敵が退却に際して焼き払はうとした跡が歴然としてゐる。
この町は塩で生活してゐる町なのだが、今は、塩を売買するものがゐなくなり、それを運搬する苦力だけが残つてゐるのである。もちろん、この物資は敵産として目下処分されつゝあるのである。今考へると、この塩の停滞が中支一帯に最近の塩饑饉を現出したものであらう。現に、私の知つてゐる限りでも、九江附近の農民は、一握りの塩を得るために豚数頭を提供して惜まないといふ状態であつた。
しかし、もう、この塩が日本軍の手によつて地方にばら撒かれる段取りがついてゐるとのことである。
この土地の守備隊で話をきくと、一般住民の塩にたいする執着は怖しいほどで、雨が降ると、いち早く集積場の周囲へ流れ出る塩水をしやくひにやつて来る。また、歩哨の眼を掠めて塩の袋を盗み出すものがある。見つけ次第、歩哨は容赦なくぶつ放す。盗人は袋をかついだまゝ倒れる。すると、何処からか数人の人影がばらばらと現はれ、その袋の奪ひ合ひがはじまるのださうである。
一つの塩の山が崩されつゝある。恰度蟻がたかつたやうに苦力がうようよしてゐる。袋を二つづゝ肩にのせて検査所まで運ぶ。そこからはトロッコで桟橋の上を船まで押して行くのであるが、これは若い女の仕事である。
トロッコが通ると桟橋の上に白い筋が残る。そのこぼれた塩をねらつてゐるものがある。看守が見張つてゐてなかなか近づけない。
美しい結晶体の岩塩である。色のどす黒いのもあるが、大きな塊になると拳ぐらゐのがあつて、舐めてみるとちつともあくがない。支那人は海の塩よりこの方を珍重するといふことである。
さて、そこの巡視を終つて、一行はまた船に乗り込んだ。瓜州といふところからいよいよ隋の煬帝が作らせたのだといふ世界第一の運河にさしかゝる。幅は百米から二百米ぐらゐの大クリークである。堤防の上を曳き船の綱を肩にして、前こゞみにゆるゆると歩く人々の姿も長閑であるが、なによりも、この満々たる水の流れの静かさ! 一望千里の平野を点々と綴る楊柳の刷毛で塗つた
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