軍第五師陣亡将士紀念塔といふのが建つてをり、そこからは九江の街が広く見渡せる。植ゑて間もない樹が、何れも馬を繋ぐために背丈ほどのところで切られてゐる。かういふところばかり見て廻つてゐると、なにも見ないのとおなじになるといふ気がして来た。
 宿舎のヴェランダから暮れて行く南方の空を眺めてゐると、廬山の峰々を掠めて、絶え間なく飛行機が去来する。なかには、頭のすぐ上を低く飛んで行くのもある。水面で魚をねらつてゐた鳶の群が悠々とその後へ舞ひあがつて、ひとくさり空中戦の真似を演じる。
 瑞昌南方の山岳地帯で、わが○○部隊が敵の包囲を受け、弾薬糧食を空中から投下してゐるのだといふ噂が伝はつて来る。
 私の胸はしめつけられるやうだつた。その晩は、いつまでも眠つかれなかつた。

     楊州へ

 十月十七日、私は連絡機の便を得て、南京へ飛んだ。
 こゝで私はいゝ通訳をみつけて小学校の先生たちと少し話をしてみたいと思つたが、××××は丁度忙しい最中で、その係りの人にも会ふことができず、私は諦めて地図を頼りに街をぶらぶら歩きまはつた。しばらくの間に南京も目立つて賑やかになつたやうだ。大通りの真ん中で、支那の女同志がつかみ合ひの喧嘩をし、一人の男がその中へ割つてはひつて一方をなだめすかしてゐる光景さへ目撃することができた。もちろん人だかりがしてゐる。なかには薄笑ひを浮べて、またはじまつたといふやうな顔をしてゐるものもある。私はそれでたいがい見当がついた。実直さうな四十男が、その女房に違ひない頬つぺたから血をたらしてゐる若くも美しくもない女の手をぐいぐいと引つ張る。女は地団太を踏んで応じない。大声で泣き喚く。片手を捲きつけた道傍の並木の枝がばさばさと揺れた。
 この戦争はどうならうとかまはないだけに見てゐて気が楽だ。しかし、こんなところで暇をつぶすのは勿体ないから、いゝ加減に切り上げよう。
 光華門のそばに日本人経営の相当な支那料理屋があるといふので昼食をしに行つてみる。
 サーヴィス・ガールは十六、七の支那姑娘だが、いくたりも側へ寄つて来て勝手に卓子の上の南京豆を噛り、日本の流行歌を得意げに口吟むので聊か興を殺がれた。料理も評判ほどでなく、第一材料も乏しいとみえて、献立が貧弱であつた。南京ではまだ支那人の生活が形を成してゐないといふ感じがした。

 この前訪ねようとしてつい暇がなかつ
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