山は鉢巻をしてゐる。」
 爆撃用意の無線命令が部隊長から発せられた。松原中尉は、私に眼で合図をして、片手を釦の方へ伸ばした。恐らく複雑な計算をしてゐるのであらう。
「ごらんなさい、ごらんなさい」
 今井軍曹の声に、私は、もう一度、首を突き出さうとした。気がつくと、私が無意識に掴まつてゐたのは、物々しい機銃の脚であつた。こんなところにも、こんなものがあるのかと思ひながら、遥か眼の下の空中に瞳を据ゑると、見えた見えた、編隊の各機から振り落された黒い細長い滴が、横倒しのまゝ大きな弧を描いて降つて行く。そして、それらが何者かの手で手繰り寄せられるやうに、次第に纏つた束になり、掌大に見える地上の一部落の上に吸ひ込まれると見える瞬間、もくもくと白煙が吹きあがつて、それでおしまひであつた。眼鏡を出して見ようと思つたがもうその暇はない。今井軍曹はもう次の作業にとりかゝつた。私も起きあがつた。今度は機体の上の窓から、宣伝ビラを撒くのである。私もそれなら出来ると思ひ、手伝ひませうと云つて、そこにある、束の印刷物を取りあげた。何処に向つて投げるのでもない。たゞ手を高く差しあげて、一度にぱツと放せばいゝのである。数千の紙片は、殆ど塊りのやうになつて、機体をすれすれに逃げる。二三枚は、尾翼に縋りつく。塊りは次第にほぐれる。鳩の群れのやうに飛び、吹雪のやうに散る。支那兵は、それの一枚一枚を拾つて読む。自国の到るところに反蒋運動が起つてゐることを知らされるのである。
 編隊は徳安の南方永修附近で、大旋廻をして再び機首を北に向けた。第二回の爆撃が、同じ※[#「虫+礼のつくり」、第3水準1−91−50]津街の上に加へられた。敵は、地上から若干の応戦をしたらしいが、私は気がつかなかつた。戦闘機でも飛ばして来るのであつたらそれこそ油断はならんが、そんなおそれがあるとすれば、われわれの同乗は勿論許されなかつたであらう。必要にして十分な満足感を得て、基地に戻る。心にくき当局の計ひであつた。

 明日は武穴の対岸馬頭から○○部隊の陽新攻撃を見に行くといふので、リユックサックに入れる品物を撰り分ける。
 かねがね私は、占領直後の街へ憲兵と一緒にはひつて行つたら、住民の動静を観察するうへに便利であらうと思つてゐたから、幸ひ今、九江に同期の五十嵐が漢口○○○長として待機してゐるのに、その話をしてみた。
「そんなら漢
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