警察教練所
憲兵隊長の勧めで、今日は警察教練所なるものを見学する。
県警察局長の×氏が案内をしてくれる。
どうもかういふものを見せられても私は一向勘どころがつかめないのであるけれども、所長の熱心な訓練ぶりが、やゝ公式的とは思はれたが、敬意を表するに足るものであつた。
先づ密集隊形の教練からはじまり、槍術の型のやうなもので終るのだが、聊か講評めいたことを云へば、指揮官の動作と云ひ、列兵各個の運動と云ひ、支那式教練をはじめてみる私には、およそ戦闘の用には遠い舞伎的要素の過剰を感ぜしめた。
私はもとより、「軍隊式教練」といふものゝなかに、単に戦闘的要素のみをみるものではない。寧ろ、それと並行して、「儀式的な」あるものゝ最も合理化されたすがたを発見するものである。秩序と礼節がおのづからそこに生れるやうな、単純で正確な方法の規定がある。これは一方、団体の精神の象徴であると同時に、武力そのものゝ装飾化である。
この原理にもとづく教練の形態は、各国の文化の質に応じて多少の違ひはあるが、同じく最初に欧式軍隊を範とした日支両国の、今のこの距りはまことに興味深いものである。
警察局長が、私に是非何か感想を述べよといふので、止むを得ず私は、
「警察は軍隊ではありません、警官は敵を倒すのが任務ではなく、民衆の生活に秩序を与へ……」
と、まあこんな風なお座なりな警察礼讃をひとくさりやつてのけた。
郷に入つては郷に従へとは云ふけれども、私は、自分ながら、この即興的辞令があまりにも支那式であるのに気がつき、冷汗をかいた。
が、この時、ふと、この局長の帽子を脱いだ頭に、深い創痕が生々しく口を開いてゐるのを、あゝ、この人だなと思ひ出し、私は、突嗟に、通訳をとほして、
「先日は危険な目にお遭ひになつたさうですが、お怪我は如何です?」
と、見舞を述べた。
「はあ、ありがたう、この通り、もうよほどよくなりました」
といふ返事であつた。
つい一と月ほど前のことださうである。この局長が県公署の玄関を出て通りへさしかゝると、何者かゞ、乗つてゐる洋車の梶棒を押へた。と、その瞬間、後ろから鉈のやうなもので脳天をガンとやられたのである。
犯人はその場から姿を消してゐた。
憲兵隊の活動となつた。しばらく手がゝりは得られなかつた。ところが、ある日、一人の男が憲兵隊へ現はれて、犯人はこれ
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