から1字下げ]
国際間の平和と親善とを促進する最も有力なる方途の一つは温かき理解の下に行はれる各国文化の渋滞なき交流にあると信ずる。昨夏不幸にして惹起されたる支那事変を通じ我々の痛切に感ずる事は、如何に国家間の隔意なき意見の交換と提携が行はれ難いかと云ふ事である。
近年国際関係が複雑多岐になつたが、各国間に文化の交換が不断に行はれ、国民的性格、教養を互に理解し合ひ真に人類の幸福に貢献せんとする意図を有するに至るならば世界は現在より以上の平和を享受することが出来るであらう。
諸外国の日本に対する認識も、七十年前に較べれば、雲泥の相違であつて、その間日本の為した進歩に驚異の眼を瞠りつゝあつた世界の人士も最近に至つて、唯、表面に現はれた物質文明の形相のみならず、これを築き上げた原動力への認識探求、即ち日本精神の研究熱が澎湃として興つて来たのである。而してその最も顕著なる現はれは各国の留学生の本邦に渡来するものが著しくその数を増した事である。
顧れば、明治維新後、幾多の日本青年が青雲の志を抱いて世界各国に遊学した。その学び取りたる新知識と我国の伝統的精神との渾然たる融和こそ今日の日本を
前へ
次へ
全9ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング