は示したが、一方、支那も相当に頑張り、長期抗戦の夢は今にも破れさうにみえて案外さうでもない不思議な根強さをもつてゐることがわかつた。

 わが国民はこの事実の前に新な認識をもつて起ち上らねばならぬ。当分、片手に武器を放すわけに行かぬと同時に、もう一方の手を自在に働かすことが必要である。「長期建設」といふ言葉は、それによつてはじめて意義を生ずるのである。私は、この国家的大事業を遂行するために、もう標語の製作や歌の合唱は不必要だと思ふ。国民の精神的能力が、直にその目的のために動員せられ、ひとつの組織を通じてそれぞれの活動を開始すべき時期なのである。
 恐らく現在、国内にあつて祖国の運命に想ひをひそめつゝある知識人の悉くは、如何にして自己の才能と技術と、殊にその文化的感覚とを時局の発展に沿つて役立たせるかといふ一点で、もはやその身構へだけはできてゐるのである。部署が与へられ、「出発」の命令が与へられゝばいゝのである。

 過去一年半の朝夕、国民は、大陸の野に山にじりじりと押し進められるわが武力の輝かしい足跡を追ひつゞけたのである。それは、しかし、悲壮な勝利に酔ふといふやうなものではなかつた。
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