の扇子、輸出向の人形、曰く何、曰く何……。日本人は可愛いお土産を呉れる勇敢な国民なりといふ定義は到る処で通用してゐる。そのくせ、気まりが悪い時にはきつと膨れ面をするのである。
 そこで僕は、西洋人が日本のどういふところに興味をもつてゐるかを知つた上で、さういふ興味のもち方を軽蔑してやるだけの度胸が必要だと思つてゐる。
 某国の皇太子が、車夫のハツピを着て、梶棒を握つてゐる写真を新聞に出したまではいいが、それをいかにも平民的な行為であるかの如く感心してゐるに至つては、お人好しも極端である。そんなことをしたら、黙つて横を向いてゐるがいい。
 日本人が、有色国民、殊に同種同文の隣邦民に対してすら、甚だ尊大であるのに、白色人種、殊に英米人の人も無げな振舞ひに対し、飽くまで幇間的態度を示すのは、誠に笑止千万である。
 議論がやや脱線の気味であるが、要するに、歌舞伎なら歌舞伎劇を欧米に紹介するに当つて、かのお土産式態度をもつて臨むことは禁物であるのみならず、さういふ結果をしか招かぬ場合を顧慮してかかる必要がある。
 僕は、意気昂然たる左団次の足跡を見たい。(一九二八・一〇)



底本:「岸田國士全集21」岩波書店
   1990(平成2)年7月9日発行
底本の親本:「時・処・人」人文書院
   1936(昭和11)年11月15日発行
初出:「悲劇喜劇 創刊号」
   1928(昭和3)年10月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2007年11月14日作成
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