のものであるから、以上の精神に基づいて、これを正しく美しく護り育てゝ行くことが、個人として、社会として、殊に国民として、必要なことに違ひない。日常の談話を月並と卑俗とから救ふことは、めいめいが自分の「生活」をもつことから始め、読書によつて語彙をできるだけ豊富に蓄へ、その上傑れた文学に親しんで、いはゆる「語感」を十分に呑込んでおくことが肝腎である。標準語の会話が往々無味乾燥に陥り、ていねいな言葉遣ひが、時として白々しく滑稽に見えるのは、多くは語感の不足から来てゐる。
 言葉の洗練は結局、人間修養の上に築かれて初めて意義があり、知識人の自ら備ふべき言葉の魅力とは、その人の豊かな教養から発する矜持の現はれであつて、己を識り、相手を識り、礼節と信念とを以て真実を率直に語ることに尽きるのである。

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この一文は昭和九年十月婦人公論に発表したのを、更に中等女子国語読本に収録するため書き改めたものである。
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底本:「岸田國士全集22」岩波書店
   1990(平成2)年10月8日発行
底本の親本:「現代風俗」弘文堂書房
   1940(昭和15)年7月25日発行
初出:「女子新国文巻十」冨山房
   1935(昭和10)年発行
※初出時の題は「言葉の魅力」。
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年9月5日作成
青空文庫作成ファイル:
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