れて、朗かな微笑を浮べる。が、ふと、気がついたやうに、慌てゝ威厳を取戻し)ふん、もう免疫ですよだ。
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群集の黒山をかきわけて、彼女と彼とは左右に別れる。
群集は、口々に「天城更子だ」「三堂微々だ」など喚き立てる。(合唱)

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○更子の家。

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更子は寝台の上で新開を読んでゐる。
新聞の三面には「天城更子嬢の暴行」といふ大見出しで、二段抜きの記事。
春日珠枝が、名刺を持つて来る。更子は、それを一瞥して、
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更子  昨日から、さう云つてるだらう。新聞社の人には、当分、絶対に会はないつて……。
珠枝  でも、是非つて云ふんですの。
更子  向うの「是非」より、こつちの「絶対に」の方が強いんだからね。さう云つておやり。
珠枝  それが、この人、変なこと云ふもんですから……。
更子  変なことつて……?
珠枝  先生の御一身上について、何か重大な問題が起るかも知れないつて……。
更子  通してごらん。会つてみるから……。応接は片づいてるね。

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