を拒み)いや、それも取つてお置きなさい。また、あとで、こつちだなんてことになると厄介ですから……。(椅子にかける)
横川 なにを騒いでるんだ。
更子 (横川に今受け取つたダイヤを示し)ねえ、これでせう。
横川 (検めて)うむ、これだ。
更子 さつきの……ねえ……今、駄目……?
横川 (鷹揚にポケツトから小切手を出して更子に渡す)
更子 ぢや、これ……御約束の御礼ですわ。
微々 (その小切手を、横川の方に突き返す)
更子 どうしてゞすの……(また、それを後ろの方に押しやる)
微々 (黙つてまた、押し返す)いりません、こんなもん……。
更子 それぢや、あたしが困りますわ。
微々 どうしても、御礼をなさりたいんですか?
更子 ……。
横川 まあ、受け取つてお置きなさい。
更子 ほんとに……。
微々 僕は、その代りに、ほかのことを要求します。
更子 なんですの?
微々 あなたの漫画を、もう一度描かせて下さい。(こだわりのない微笑)
[#ここから5字下げ]
更子は、微々の顔をぢつと見つめてゐるが、やがて、傍らの長椅子の上に、わツと泣き伏す。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
微々 (慌てゝ)御免なさい、御免なさい。
更子 (急に顔をあげ、にツと笑ひかけるが、また、顔を両手でかくし)あたしも、御免なさい。
[#ここから5字下げ]
さう云つたかと思ふと、再び、突つ俯して、声をあげて泣きはじめる。
[#ここから1字下げ]
○広い庭園を前にしたレストランのテラス。
[#ここから5字下げ]
夜だ。
天城更子、三堂微々、横川洗身の三人が卓子を挟んで、食後のカフエーを飲んでゐる。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
横川 これで、仲直りができたわけだな。この、世にも稀れな二人の喧嘩は、結局、二人の損にはならなかつたと思ふが、どつちも引つ込みがつかなくなると困るからな。まあ、好い加減のところで、媾和条約を結んだ方がよからう。何か飲みますか三堂君……?
三堂 更子さんは……?
横川 この人は、ミリヨン・ダラアだ。さうだらう。
更子 なんでも結構……。
横川 いやに神妙だね。
更子 飲まないつて云つてやしないわよ。
[#ここから5字下げ]
横川が、ボーイに、ウヰスキイを
前へ
次へ
全25ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング