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横川  (更子に)君一人で話をし給へ。大丈夫だらう。
微々  大丈夫です。
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横川と嬉野は、次の間に去る。
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微々  この間は失礼しました。これは、非売品にしたのですが(額の包みをほどき)特に、記念としてあなたに進呈します。(絵を差し出し、卓子の上に置く)
更子  (黙つてそれを見てゐるが、いきなり、手に取り上げて、傍らの長椅子の上に投げ出す)
微々  まだ怒つてらつしやるんですか。それでは、次にあの際お落しになつたダイヤですが、何処で拾つたとお思ひになります。
更子  ……。
微々  不思議ですね、あの絵の裏にはひつてました。絵には勿論穴があいてゐます。今朝、会場を片づける時に、そいつを発見したんです。ところで、誠に困つたことができたと云ふのは、僕、実は、少し前に、あるところで、やはり、ダイヤを一つ買つたんです。何時かそのうちに恋人でもできたら、贈物にでもしようと思つて、奮発をしたもんなんですが、そいつを、蟇口ん中へほうり込んで、そのまゝ忘れてゐました。で、今日、偶然、あなたのダイヤをまた、その蟇口ん中へしまつたんですが、さて、たつた今、気がついて出してみると、どつちがあなたので、どつちが僕のだかわからなくなつた。所が丸でおんなじなもんですから、僕たち素人には、ちよつと見分けがつかんです。ひとつ御面倒ですが鑑定をして下さい。
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微々は、卓子の上に、二つのダイヤを並べる。
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微々  どつちです、あなたのは?
更子  (二つを見比べてゐるが、やがて)むろん、こつちですわ。(一つを引寄せる)
微々  (残つた方を手に取り、それを見つめながら、にやにや笑ひながら)さうですかなあ……たしかでせうね。
更子  (急に自信がなくなり)ちよつと、拝見……。
微々  どうぞ。(渡す)
更子  さうおつしやれば、こつちのやうですわ。
微々  (前のやつを手に取り)さうでせう。うつかりすると、そつちの方が安手に見えますけれど……こつちは、少し光が強すぎますからね。しかし、間違ひはないでせうね。(蟇口の中へしまひかける)
更子  でも、これは少
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