性が乏しいとか、小劇場式演技が禍ひしてゐるとか、その他、幾分は穿ち得た見方をしてゐるのであるが、それならば、仮に今日の新劇がそれらの条件を悉く具へた一つの方向を取り得たとしても、現在の俳優を以てして、如何なる舞台の魅力を予想し得るであらう。
 結局は、新しい演劇は新しい演技の精神を要求し、新しい戯曲の生命は、それによつてはじめて、近代的演劇実の構成に役立つわけである。
 日本の新劇は、今やうやく、その一部に於て、所謂本質的傾向に目覚めた運動の頼母しき曙光を認め得るに至つた。雑誌「劇作」に拠る若干の新進作家及評論家、劇団築地座の舞台に立つ一二の俳優は、少くとも、その意味に於て、私の期待する人々である。
 ただこれを取巻くわが劇壇全般の雰囲気は、果して彼等の健全な成長を阻むことなきや否や、私は秘かにこれを懼れてゐる次第である。(一九三四・四)



底本:「岸田國士全集22」岩波書店
   1990(平成2)年10月8日発行
底本の親本:「現代演劇論」白水社
   1936(昭和11)年11月20日発行
初出:「文学 第二巻第四号」
   1934(昭和9)年4月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年9月5日作成
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