作である事実を否むわけに行かぬ。ロスタンは飽くまで民衆的芸術家たる信念を以て、いきなり街頭に名乗りを揚げた。これが、写実劇の実験室的高踏性と相容れぬところである。ロスタンは、たしかに、平俗な主題を純粋な感情で高め、演劇の娯楽性を、その詩的才能によつて芸術化しようとする野心をもつてゐた。しかも、仏蘭西人なるが故に、仏蘭西人の趣味と性向とを、聊もこれに媚びることなく、朗らかに高らかに歌ひのめしたのである。これも亦、詩人には許さるべき天真爛漫の美徳だと考へることができる。これだけの前提をしておいて、さてロスタンには、天才的戯曲家といふ折紙をつけてもよく、その芸術に於ても、やはり一八八七年(自由劇場創立の年)以後の新機運に遅れてゐると断ずることはできない。なぜなら、その文体の凡そ古典的な匂ひのうちに、寧ろ自然主義作家の多くが企て及ばなかつた生命の躍動があり、その上、彼の詩的幻想は常に健康な舞台的脈搏を伴つてゐるからである。
イプセンと並んで、アウグスト・ストリンドベリイ(August Strindberg, 1849−1912)の名も、その徹底自然主義とも名づくべき深刻無比の男女争闘劇によつ
前へ
次へ
全56ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング