jを一と通り漁らなければならぬ。そして、それぞれの国のそれぞれの時代を照し合せて、その間に起つた文学、殊に劇文学の交流作用を見きはめる必要がある。比較文学の方法の利用は、この研究に欠くべからざるもののやうである。
 なほ、各国各時代各流派の代表的作家ばかりについて、何かを知るといふだけならそれほど困難でもないが、近代劇の祖先を誤りなく調べ上げるためには、各国戯曲史の上で、どうかするとささやかな存在として取扱はれてゐるかの慎ましき「先駆者」を見落してはいけないのである。それと同時に、超民族性ともいふべき特殊な素質によつて、或は偶然の機会に恵まれて、逸早く国境を越えたある種の作家が、真価以上の役割を自国以外で演じてゐる事実を警戒し、注意しなければならぬ。さうかと思ふと、ある国で最もその後代に影響を与へたやうな天才的作家が、その作品の純民族的特質に災され、他国の文壇に容れられず、その功績を過少に見積られてゐるやうな場合もある。
 で、私はこれから、自分の専門である仏蘭西劇を中心として、できるだけ大づかみに、近代劇の血統を尋ねてみることにしよう。断つておくが、これと同じ方法で、独逸劇、英国劇、
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