いふ形を作り出すことが大切なのです。その役割は文学者にもあらうし、そのタイプにも種々な方面があらうと思ひますが、これはやはり指導者が自然に作り出さなければならないと思ひます。さうすると、家庭に於ても母親なり父親なりが、はつきりとさういふタイプを目やすにして、安心して子供たちを育てゝ行けるわけです。
 自分は将来どんな人間になつたらよいのかといふ立派なイメージがなくなつたことは、青年を指導する上に危険なことであり不安なことであります。
 立派な青年といふイメージを作り出すといふことは、同時に、立派な日本人とは如何なるものかといふイメージを作ることであります。「立派な日本人」と云つた方が、全体が一つのところに集るわけですけれども、今はさういふ姿が消えかゝつてゐると思ふのです。
 これを、職場職場の青年について、「其処の職員として立派な青年」といふ形で考へるのは、一応よろしいのですが、これが単に其処の状態に間に合ふ一番使ひ易い人間が最も立派な人間だと思はせることになつては、青年を萎靡させる大きな原因になると思ひます。この頃世間を見ますと、上に立つ者の要求する人間は、必ずしも立派な人間である必要はなく、寧ろ、たゞよく云ふことをきくとか、間に合ふとかいふ点だけから青年を遇する傾向が目立つのであります。(昭和十六年五月)



底本:「岸田國士全集25」岩波書店
   1991(平成3)年8月8日発行
底本の親本:「生活と文化」青山出版社
   1941(昭和16)年12月20日
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年1月20日作成
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