て、単に、三角関係によつて生じる月並な争闘心理を、不用意に暴露させ、陳腐な悲劇的結末に、平気で見物を引ずり込まうとしてゐます。従つて、全篇を通じて作者の努力してゐるのは、最後の場面に必然性を与へることだけと云つてもいゝくらゐです。殊に気になるのは、或ることを云ふため、或ることが起るために、絶えず見え透いた準備的伏線が張つてあることで、少し物わかりのいゝ見物は見物の方が先へ行つて待つてゐます。殊に不手際と思はれるのは、見物が先へ行かうとするのを、無理矢理に引止めて置かうとする作者の手管《てくだ》です。見物がついて行けないでも困りますが(それもかまはないと云ふ作者なら別です)もう少し、見物にも考へる余地を残して置いて貰ひたいと云ふ気がします。言葉の裏の言葉、事件の裏の事件を、作者の心の中にまで少しはいつて、見物がひとりでそれを判断し、洞察し翫味するところに新しい芝居に対する新しい見物の要求があるのではないかと思ひます。
然し、こんな理屈をぬきにして誰の作とも知らず、何時頃の作とも知らず、たゞ、左団次が寿三郎を組み敷いて、『わしを斬つてお互の苦しみが……』と云ふあたりへ来ると、変に喉がひつ
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