だ人は、ストリンドベリイやゴオルキイからいろいろの暗示を受けたらう。之に反して恐らく、仏蘭西の劇作家からは何等教へられる処はなかつたらう。ブリユウなどが早く紹介されたにした処で。
 日本現代劇はまだ揺籃時代である。私に云はせれば、外国劇のほんとうの影響は、これから先き受けようとしてゐるのである。あまり眼まぐるしく多くの外国作家を次ぎ次ぎと見せられた現代日本の劇壇は、まだほんの西洋劇なるものゝ形式的概念だけを掴み得たに過ぎない状態にある。
 日本現代劇の主流は、何といつてもまだ写実から脱け出してゐない。つまり、西洋劇が比較的忠実な紹介者を得て、文学的に日本の劇壇を刺激啓発したであらう時代から、西洋劇からはもう何等学ぶ処はないといふやうな顔をしてゐる今日まで、結局、日本の劇壇は、傾向的に見て、何等の著しい飛躍も、推移もしてゐないことになる。これまた止むを得ないことであらう。西洋でも、それだけの期間には、実際、中心的な動き方はしてゐないのだから。
 それにしても、相当、お先つ走りな日本劇壇が、一度は兎も角、新しく現はれたものにくつついては行くが、とゞのつまりはまた最初の出発点に帰つて、そこを
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