本の時代遅れなことでもなく、演技そのものの不自然でもなく、ただ、諸種の人物に扮する俳優が、如何にも観客を甘く見てゐる、あの態度である。甘く見てゐるといふのは、彼等が、旧時代の教養や非個性的趣味から割出した演技の「トオン」を、さも大事らしく見せびらかすことである。舞踊劇は先づよいとして、時代物、殊に世話物などになると、この傾向は、最も著しく現はれる。今日、凡そ封建思想ほど滑稽で、不愉快なものはない。その思想は、せめて舞台上の俳優によつて、一度は十分に客観化されねばならぬのに、それがこのまま、俳優の演技を色づけてゐるのだから、馬鹿馬鹿しいのである。
現在の歌舞伎劇は、観客として、知識階級を失つた。遠からず民衆の悉くを失ふだらう。(一九二九・四)
底本:「岸田國士全集21」岩波書店
1990(平成2)年7月9日発行
底本の親本:「現代演劇論」白水社
1936(昭和11)年11月20日発行
初出:「悲劇喜劇 第七号」
1929(昭和4)年4月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2007年11月20日作成
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