子  事件が起つてるぢやありませんか。
貢  こつちにもさ。――ぢつと待つてれば、何かやつて来さうな気がするんだ。お前、そんな気がしないかい。
牧子  しますわ。
貢  ね、するだらう。変なもんだね。こんなものかねえ。
牧子  ……。
貢  今夜、一晩、起きててみようか。ここに、かうしてて見ようか。何かしら、あるよ、たしかに……。
牧子  いやですよ、そんなことなすつちや……。
貢  兎に角、これは大したことに違ひないよ。四つの魂が、此の月の光の中で、ダンス・マカアブルを踊るかもしれないよ。おれは、それが見たいね。一寸でもいいから見たいね。
牧子  なんのことですの、それは……。
貢  静かに眠ればいいさ。(間)さもなければ、大きな声で歌がうたへるか。(間)どつちもむつかしさうだね。それぢや、どうしよう。(間)かうしてるよりしかたがないぢやないか――かうして、ぢつとしてゐるより……。(椅子の背に頭をもたせかける)
牧子  (静かに涙をふく)
[#ここで字下げ終わり]

[#地から5字上げ]――幕――



底本:「岸田國士全集2」岩波書店
   1990(平成2)年2月8日発行
底本の親本:「屋上庭園」第一書房
   1927(昭和2)年5月25日発行
初出:「中央公論 第四十二年第一号」
   1927(昭和2)年1月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※複数行にかかる中括弧には、けい線素片をあてました。
入力:tatsuki
校正:Juki
2009年11月12日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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