からだといふ事実を指摘したかつたのである。そして、「文学」から離れて行く傾向は、必ずしも意識的でなく、従つて、余程の覚悟がないと、「劇作の道を励んでゐる」つもりで、知らず識らず、肝腎な創造的精神の育成――つまり、芸術修業の本道を踏み誤る危険があるといふ意味を伝へたかつたのだ。
 ところで、山辺氏は、僕の所論の一節を挙げて、「至極尤もなことであり、大がいの作家なら、口にこそ出さなくとも、つとに身に感じてゐることに違ひない」と云はれるが、口に出す出さぬは別として、身に感じてゐるものが、何故に、仕事として現はれないかを、僕は反問したいのである。
 日本の事情が如何にあらうとも、「若いものが芝居をし、芝居を書くこと」がいけないのではなくして、「若いものが芝居をし、芝居を書く態度そのもの」が、問題なのである。(一九三三・五)



底本:「岸田國士全集22」岩波書店
   1990(平成2)年10月8日発行
底本の親本:「現代演劇論」白水社
   1936(昭和11)年11月20日発行
初出:「劇作 第二巻第五号」
   1933(昭和8)年5月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志

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