黷ナ略々、戯曲といふものゝ本体が明かになつたと思ひます。
 途中の説明が大分長くなりましたが、要するに戯曲のもつ「美」は、文学の他の種類に於ては、求め得られない、――少くとも第一義的ではない――「語られる言葉」のあらゆる意味に於ける魅力、即ち、人生そのものゝ、最も直接的であると同時に最も暗示的な表現、人間の「魂の最も韻律的な響き(動き)」に在ると云へるのであります。そして此の、「響き」は、或る時は『マクベス』の如く高く烈しく、或る時は「桜の園」の如く低く微かに、而も常に調和と統一の美感を保ちつゝ全篇を貫き流れてゐる。主題と結構と文体、此の三者の渾然たる融合がそこに在るのであります。そこで、人生の神秘な竪琴は、戯曲といふ楽譜を通して、舞台の上で奏でられる――といふ段取りになる。

       三

 そこで、もう少し、戯曲の本質美について云へば、或る意味に於て人生の再現と称し得べき戯曲の幻象《イメージ》は「現はされてゐる人生」そのものが如何なる人生であるかといふ興味と、「現はされてゐる人生」が如何に現はされてゐるかといふ興味とから、芸術的感銘を与へるに違ひない。そこで前者は、小説にも戯
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