ね。(急に声をひそめ)あら、よつぽどおわるいの?
とま子 (片眼をつぶつてみせ)えゝ、なんですか、はつきりしないんですのよ。
末子 胃病は、あれでなかなか、あとが大変でね。
卯一郎 (咳払ひする)
とま子 胃の方は、すつかりよくなつたんですの。今度のは、神経痛ですけど……。
卯一郎 (また咳払ひ)
とま子 それに心臓が少し弱つてるんでせうね、時々、苦しがりますの。
卯一郎 (息苦しさうな声を出す)
末子 ほんとだわ。冷《ひや》すかあつためるかしてらつしやるの?
卯一郎 末子さん……いらつしやい。なんでも……ないんですよ。(大きな溜息)たゞね、たゞ……ちよつと。……時に、お宅の方は、景気がいゝですか。(末子の方に笑ひかけ)小さいのは、風邪《かぜ》も引かずにゐますか。
末子 あんまりお話をなすつちやいけないんでせう。
とま子 さつきまで一人で喋《しやべ》つてましたの。
卯一郎 ほ、ほ、発作的に来るですよ。もう楽になりました。医者にはわからんと見える。これや、たしかに、弁膜症といふやつです。あんたのお父さんは、そいつでなくなられたんぢやなかつたかな。
末子 心臓は心
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