本文化新研究とかいふ気勢の底には、それを明らかに標榜してゐるものもあるが、西欧思想の近代生活面における支配的位置を不当なものとして、少くとも日本を中心とする東亜民族の上に、わが伝統的文化の君臨を翹望する大野心がひそんでゐるやうに思はれる。これ亦決して不都合なことではない。では、なにが、どういふ場合に、われわれの神経にさわるのであらう。日本人が日本人に向つて日本のことを褒めて話すといふ、元来極めてデリケートなことがらを、それと気づかずに話す、その話し方ひとつにあるのである。
せんだつて、ある人がラヂオで、日本人の体格が美の標準から云つて西洋人のそれより優れてゐるといふことを論断してゐるのを偶然聴いた。それはつまり、日本人の生活様式がより自然の理法に適つてゐ、例へば穀物を主食物とし、膝を折つて坐るといふやうなことが、筋肉の布置を最も円満にし、関節の機能を十分に発達させ、西洋人にはみられない安定な均整美を作り出してゐるうへに、戦争に強い原因ともなつてゐるといふことを熱心に説いたものであつた。
これはわれわれにとつてまつたく耳よりな話で、私の家の娘などは、全然椅子生活にさせるのは将来不便で
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