談した。
「背中の瘤を取つてやれ」一同は声を揃へて云つた。
 背中の瘤が取れた。
 翌朝、日の昇る前に、仕立屋は意気揚々と家に帰つた。その日は日曜である。近所のものが寄つてたかつて「一体どうしたんだ」と尋ねた。仕立屋は昨夜の一件をつゝまず話して聞かせた。
 之を聞いた織物屋――これも佝僂である――額を叩いてよろこんだ。「おれもやつてやる」
 織物屋はケリオンの踊つてゐる場所を尋ね廻つた。やつと、それを見つけて仲間入りをした。
「月曜、火曜、それから水曜、それから木曜」
 そのあとへ「それから金曜」とつけ加へた。
 一同は之に和した。
「いけねえ、こいつは」一人が云つた。
「とてもいけねえ」もう一人が云つた。
「こいつは駄目だ」みんなが声を揃へて云つた。
「罰をくはせろ」誰かゞ云つた。
「どうしてやらう」親玉が諮つた。
「仕立屋の瘤をつけてやれ」一同が一斉に叫んだ。
 織物屋は二つ瘤を背負つて、すごすご家に帰つた。彼は悲嘆のあまり、年の暮に死んでしまつた。

 カルナックの海岸に、「牛のお化け」が出ることは誰でも知つてゐる。カルナックのものはみんな知つてゐる。此のお化けの名はコオレ・ポル・エン・ドルウといふのである。
 このお化けは決して人に危害を加へない。たゞ手におへない悪戯者である。殊に漁師はさんざん弄りものにされるのである。
 よく、牛の姿をして、浜を走りまはつてゐるのを見ることがある。どえらい声で唸る。真夜中など、あまり気味のいゝものではない。
 ある日、一人の農夫が、飼牛が見えなくなつたので、日が暮れるまで探しまはつた揚句、やうやく見つけて、牛小屋まで連れて来ると、それが急に人間の姿に変つて、大声で笑ひながら、手を叩いて逃げて行つた。

 嵐の前には、きつと、岸の上で悲しさうな声が聞える。
 夜中に、村ぢうに聞えるやうな声で、怒鳴るものがある。
「やあい、みんな来い、昆布が山ほど浜にあるぞ」
 漁師や農夫たちは、熊手や車を用意して、大急ぎで出かけて行く。行つて見ると、なんにもない。
 コオレ・ポル・エン・ドルウは手を叩いて笑ふのである。そして海の中へもぐつてしまふ。
 度々、魚に化けて漁師の網にかゝる。家へ帰つて、いざ料理をしようといふ段になると、人間の姿に変つて、笑ひながら逃げて行く。

 此の附近の漁村には、大抵、かういふ怪物が一人――一匹づゝ棲んでゐる
前へ 次へ
全4ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング