ます。二人ゆつくり並んで寝られるほどの棺でありますが、その棺の中には、無論ロミオの頭蓋骨もなく、ジュリエットの腕の骨一つ入つてゐないのでした。うす暗くて、よくわかりませんでしたが、奥の方にはイタリー特有の糸杉の立木があつて、そこに何かの胸像らしいものが真白に浮き出てゐました。近づいて見ると、それはシェイクスピアの胸像でありました。棺を見ただけでは別にどういふ感じもなかつたのですが、その胸像を見ると共に、一種厳粛な、荘厳な気持に打たれ、実際自分が「ロミオとジュリエット」の舞台の人物といふほどでもありませんが、殆んどその時代にゐて、その物語りを直接に感じてゐるやうな気がしたのでした。同時に、その作者シェイクスピアは何国の人間であるかなどといふことを少しも考へずに、たゞもうわれわれのシェイクスピアだといふ風に思つて、なつかしみを感じたのでありました。
御註文の「フランスにおけるシェイクスピア」といふやうなことについては、さしあたり纏まつた知識も持合せてをりませんが、折角のお需めですからざつとした御報告を試みようと思ひます。
まづ、シェイクスピアがどういふ風にしてフランスに入つて来たかとい
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