や、クロムランクやは、それぞれ、傑れた「道化味」をその劇的作品の中に取り入れて、見事成功してゐる。
 ファルスは、その発生の起源をたづねれば、たしかに、教養と趣味の世界からは遠いものであつたに違ひない。従つて、ファルスの主題に、精神的な高さを求めることは無理であるが、作品の芸術的価値は、一つの主題から躍動する生命感の強弱によることをも考へたならば、古代のファルスは、その様式としての魅力を近代の舞台に伝へ、そこから、更に新しい時代の呼吸を続けるに至つたと見るのが至当であらう。
 私は、将来、日本の劇壇にも、ファルスらしいファルスが、最も近代的な姿で、芸術的な香気と力強さとをもつて現はれることを期待してゐる。
 なんとなれば、所謂「道化味」は、大戦後の欧洲と同様、現代日本の社会にもぼつぼつ眼をさましつつあると思はれるからである。
 中世のファルスは、宗教的全盛の時代を背景とする退屈なお説教の中から生れたといへるなら、近代の笑劇は、又所謂社会劇万能の時代を反映する騒々しい議論の中から生れなくていつ生れるだらう。(一九二八・一二)



底本:「岸田國士全集21」岩波書店
   1990(平成2)年7月9日発行
底本の親本:「現代演劇論」白水社
   1936(昭和11)年11月20日発行
初出:「悲劇喜劇 第三号」
   1928(昭和3)年12月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2007年11月14日作成
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