究をすれば、「それよりこの言ひ方が正しい」といふ結果が得られるのである。殊に、この脚本は、さういふところに特色があるのだから、そこを素通りするくらゐなら、もつと外のものを選んで欲しいと云ひたくなる。装置と扮装は中々気がきいてゐた。
「トルアデック」に於ては、訳者はなんと云ふか、私は、あの翻訳でこそ、あれだけに行つたといふ感が深かつただけで、ジュウル・ロマンの詩的諷刺は、教師をやじる中学生のやうに浅薄なものとなつてゐた。そして、私の退屈で無遠慮にされた眼は、偶然、俳優中の一二に、今度は出てゐなかつた森雅之君の「癖」を発見して、影響の恐るべきを思つた。
 最後に、私の「好きだつた」テアトル・コメディイにも、今や、直面すべき危機が到来したことを告げておかう。苟くも、今後の成長を生み、新しい劇場人たる抱負を貫徹する上からは、どこかうは滑りをしすぎた感じが濃厚になつて来た。もう一度白紙にかへつて見事なスタアトを切り直しても遅くはあるまいと思ふ。(一九三三・一)



底本:「岸田國士全集22」岩波書店
   1990(平成2)年10月8日発行
底本の親本:「現代演劇論」白水社
   1936(昭和11)年11月20日発行
初出:「劇作 第二巻第一号」
   1933(昭和8)年1月1日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年9月5日作成
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