づくる階級的乃至職業的「型《タイプ》」をとらへて、微細な観察を下し、之を特殊な「境遇」の中に投げ込み、一種のグロテスクな、同時に涙ぐましい笑ひを引き出す手腕をもつてゐる。深刻な人生批評とまでは行かないが、犀利にして軽妙な性格描写の筆は最もよく、社会の戯画的諷刺に成功した。
彼は、仏蘭西人特有のあらゆる感情のニュアンス、巴里生活のあらゆる機微な問題と、そのゴオル人らしい機智《エスプリ》と、|寛大さ《ジエネロヂテ》を以て傍観し、いくらかのペシミスムと、あり余る皮肉とを、洒脱なファンテヂイに託して、冷たい花びらの如く、人の頭上に振りまくのである。
彼の数多い作品中には、相当「一夜漬け」があるにはあるが、此処に掲げた二篇のみ、前掲、「ブウブウロシュ」「真面目な花客」「殴られる心配」等は傑作の部に属すべきであらう。
彼は、その旧友や後輩たちが、続々アカデミイ入りをするのを平気で眺めてゐる。そして、彼にも、亦、その花々しい経歴を背負つて、立候補すべきを勧めるものがあると、彼は笑つて、「競争者がなければ……」と答へてゐるさうである。
底本:「岸田國士全集20」岩波書店
1990(平成2)年3月8日発行
底本の親本:「近代劇全集第十七巻」第一書房
1928(昭和3)年1月10日発行
初出:「近代劇全集第十七巻」第一書房
1928(昭和3)年1月10日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2006年2月20日作成
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