ポルト・リシュに及べば、ポルトはポルトガル産の美酒、リシュは「富める」の意。「芳醇なるポルト酒」の風味は、やがて、彼の芸術を偲ばせるものかも知れぬ。(こんな駄洒落を本気にして貰つては困る)
自由劇場関係の作家は、此の二人のほかにいくらも有り、ジャン・ジュリヤンの不遇を別にしては、それぞれ才能相当の認められ方をしたのであるが、例へばフランスワ・ド・キュレル、ユウジェエヌ・プリユウ、アンリ・ラヴダン、エミイル・ファアブル等は、何れもアカデミイ会員に推されて、大いに官学的臭気を放つてゐるのに反し、ポルト・リシュとクウルトリイヌは、どうしたわけか、民衆に愛されるほど、批評家に担ぎ上げられなかつた。それでも、ポルト・リシュは、最近に至つて、やうやく、アカデミイの椅子を占め、その渇仰者たちをして、いささか慰むるところあらしめたが、クウルトリイヌは、たしかまだそんな話を聞かぬ。それどころか、近頃、周囲のものから、アカデミイ会員の候補に立つことを勧められながら、「競争者がゐなければ……」と云つて笑つてゐるといふ話さへ聞いた。競争者……クウルトリイヌは、なるほど、自分をファルスの主人公にしたくはない
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