だらう。
ポルト・リシュは、大戦前後から、めきめきと評判を上げた。ことに、「恋の女」がコメディイ・フランセエズの舞台にかけられてから、その人気は一時に沸騰した観がある。
私は、巴里で、此の「恋の女」や「過去」を観、はじめて戯曲の本質について、ある発見をしたとさへおもつてゐる。
ポルト・リシュの翻訳は是非やつてみたいと思つてゐたが、たまたま今度第一書房の仕事に関係して、その素志を果たす機会を得た。
処が、詩人ポルト・リシュの翻訳には、誰が見ても最も適任である堀口大学、西条八十の両君が、これに当つて下さらない法はない――といふわけで、それぞれ一篇づつ受け持つことになつた。
堀口君は、巴里で新曲「昔の男」の演出を観て来られたさうであるから、鬼に鉄棒である。西条君もかねがね「恋の女」に傾倒し、その舞台的魅力に酔はされたことと思ふから、これもその麗筆と相俟つて、よい翻訳をされる事だらう。
私は実際、ポルト・リシュにはまゐつてゐる。力に余るとはこのことだらう。大いに勉強して、出来るだけやつてみるつもりである。三人三様の翻訳振りは、ポルト・リシュの鑑賞に一つの興味ある問題を提供するに異ひない。
クウルトリイヌは、もつと日本に紹介されていい作家である。二篇だけでは少し物足りない。これは何れ、誰かが、例へば、岩田豊雄君のやうな適任者が、これからどんどん私たちの希望を満たしてくれることと思ふ。それで初めてクウルトリイヌの全幅がうかがへるのである。
ポルト・リシュに関する詳しい紹介は、「恋の女」「過去」二篇を含む第十六巻の末尾に附する計画である。これは私が書くことになつてゐる。
なほ、本巻に載せた「昔の男」は、上演時間といふことを離れて書きつづけたらしく、実際舞台にかけるときには、作者の指示によつて、ある部分が、削除されるはずである。
底本:「岸田國士全集21」岩波書店
1990(平成2)年7月9日発行
底本の親本:「近代劇全集第十七巻 月報第八号」第一書房
1928(昭和3)年1月10日発行
初出:「近代劇全集第十七巻 月報第八号」第一書房
1928(昭和3)年1月10日発行
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2007年5月1日作成
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