ない。それに、お母さまも、なかなかよく出来た方だつていふから……。
葉絵子  さうよ。
母  それや、あんたも、あゝいふ方と未来のお約束ができれば、無論、申分はないさ。しかし、これは外のことゝ違つて、一方がどう思つても仕方がない。いゝえ、母さんにはわかるんですよ。あの方は、今のところ、決して、あんたをさういふ目で見てはいらつしやらない。それや、親切らしく見えることはあつても、社交に馴れた紳士つていふものは、必ず、相手に快感を与へるやうな態度を見せるもんです。殊に西洋風の教養を受けた男の人は、婦人に対して、特別な心遣ひを示すのがあたり前だ。それを礼儀と心得てさうするんです。
葉絵子  でも、あの方、あたしに、かうおつしやつたことがあつてよ。……でも、よすわ、そんなこと云つたつて、しやうがないから……。
母  そんなこと云はないで、聞かして御覧よ。なんておつしやつたの。
葉絵子  たつた一言。それを云へば、母さまの御意見は、全然、ひつくり返るわけよ。
母  へえ。どんなことだらう。
葉絵子  それは、まだ云はないつと……。
母  それも、あんたの解釈が間違つてゐたらどうします。
葉絵子  解釈つて、あの方、日本語でおつしやつたんですもの。
[#ここで字下げ終わり]

     三

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葉絵子は、その晩、大隈がやつて来るのを待ちうけて、二人きりで話をする機会を作ります。少し寒い晩ですが、物干台に上つて、星の説明をして貰ひました。
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葉絵子  さうすると、幾十年目かに現はれる星は、計算すれば、ちやんとわかるんですのね。
大隈  さうなんです。星の話は、もうこれくらゐでいゝでせう。寒くつて、風邪を引くといけませんよ。
葉絵子  あたくしなら、大丈夫ですわ。去年の夏は海へばかりはひつてましたから、皮膚はそれや強くなつてますの。それよりね、欽一さん、あたくし、あなたに聴いていたゞきたいことがあるんですの。
大隈  伺ひませう。だけど、こんな、お星さまの下でなけれやいけないんですか。
葉絵子  えゝ、まあ、その方がよろしいんですの。いくらか関係もあることなんですから……。それはね、あるお友達のことで、今困つてることがありますの。あたくし、一人で考へてみてもよくわかりませんから、ぜひ、あなた
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