」
雨がまだ降つてゐる……。
ボタリ! イモリだ。チイツ!
「いやだよツ、このぢゝい、お放しよツ」
雨がまだ降つてゐる。
トンキンの真昼はかなし血の如き
木の実を噛める土人の女ら
盗みたる金を施す賊もありきなど
思ひ続くる一日なりしかな。
タラ ラ ラ ラ ラ ラ もう一つ
涙さへ見せぬ彼女なりき――
シヨウロンの浜の
夕ぐれの一と時
西貢《サイゴン》
波止場に近い酒場の一隅で、おれの手を握つた男――
「お前は何処かで見たことがある」と云つた男――
斜視《やぶにらみ》の大男――油じんだ浅黄の仕事服。
「もう行くのか」――と、その声がどうしてだか耳に残つてゐる。
汽船アミラル・ポンチイの甲板
虎の爪を時計の鎖にぶら下げてゐる植民地守備隊の軍曹。
赤いフランネルの腹巻をしてゐる安南人と仏蘭西人の混血児《メチス》。
ヂブチイの黒坊から駝鳥の羽根を買つた陸軍中尉の細君。
コルシカの島かげに立つ灰色の村を指して、「おいらの故郷《くに》」と叫んだ見習水夫。
馬耳塞から巴里への汽車中
十年間、マダガスカルの守備隊に勤めて、久々で故郷の土を踏む
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