、それは日本では新しいものだ。
 僕は前に、「どん底」の演出を見て、築地小劇場の出発点はこゝだと云ひ張つた。今度「朝から夜中まで」を見て、築地小劇場の出発点はこれでもいゝと思つた。
 日本の新劇が、少くとも演出の上で、此の小劇場から色々の暗示を受けることは好ましいことである。少し場数でも多いと、上演不可能ときめてかゝる劇場主などは、舞台監督などは、一度、「朝から夜中まで」を見るがいゝ。序だから云ふが、ピトエフといふ舞台監督は十五場や二十場の脚本は、平気で舞台にかける。やり方一つですよ。
 問題の要点がわきへ外れたが、近頃、表現派の戯曲を書く人が日本にも出て来たやうである。酔払ひや狂気の囈言《うはこと》を真似ても、それや、かまひはしませんが、余程上手に真似ないと、つい正気で物を云つてしまつたりなどする。正気で物を言ふと、つい人にも解つて、それが面白くなければ「不可解の魅力」も生じないわけで、一寸困るのです。



底本:「岸田國士全集19」岩波書店
   1989(平成元)年12月8日発行
底本の親本:「時事新報」
   1924(大正13)年12月11日
初出:「時事新報」
   1924(大正13)年12月11日
入力:tatsuki
校正:Juki
2008年11月30日作成
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