め得べきものであらう。
 個々の才能を磨くことはもとより大切に違ひない。しかし、それよりも大切なことは、みなが力を協せて「天才の時代」を創ることである。「天才の時代」とは、時代そのものが無名の傑作を生むやうな、さういふ時代である。日本的芸術の開花は、およそかゝる性格のなかに真面目があるやうな気がする。
「明日の演劇」は、本来の「詩」に帰らねばならぬ。われわれは現実の批判に止つてゐてはならぬ。批判の上に築かるべきものは、批判を超へて、もはやわれわれ日本人の感覚にぢかに触れてゐるのである。壮大な夢を夢み得ないものが一人でもあらうか。
 たゞ、あとは、力の問題である。呼吸の問題である。
「演劇」は、自ら信じて起たうとするすべての演劇人の前にひらかれたひとつの精神的道場たるべきである。



底本:「岸田國士全集25」岩波書店
   1991(平成3)年8月8日発行
底本の親本:「演劇 第一巻第一号」
   1942(昭和17)年4月1日
初出:「演劇 第一巻第一号」
   1942(昭和17)年4月1日
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年3月1日作成
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