対する妨げについて

 スイスの状態は多くの点において他のヨオロッパ諸国と極めて異り、それに関して蒐集された事実の若干は極めて興味がありかつ本書の一般的原理を極めて有力に例証する傾向があるから、別個の考慮を払う価値があるように思われる。
 約三五年ないし四〇年以前スイスでは、この国の人口減退に関する突如たる大警鐘が打鳴らされたように思われる。そして数年前設立されたベルン経済学会の会報は、勤労や技術や農業や工業の衰退や、人口消滅の切迫せる危機やを慨《なげ》く論文で満たされていた。これらの論者の大部分は、この国の人口減退をもって、立証の必要なきほど明瞭な事実と考えた。従って彼らは、主として救治策、なかんずく産婆の移入、育児院の設立、若い娘への婚資の分与、移民出国の防止、外人移住者の奨励等の、提唱に没頭したのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] 一七六六年度の各種報告を参照。
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 しかしながら、その頃、極めて価値多い材料を載せた一論文が、ヴヴェイの牧師ミウレ氏によって発表された。彼は進んで救治策を指摘する前に、まず弊害の存在を証明することが必要だと考えた。彼は各教区の創設時にまで遡ってその記録簿を極めて丹念周到に研究し、第一期は一六二〇年に終り、第二期は一六九〇年に終り、第三期は一七六〇年に終るところの、各七〇年からなる三期間中に生じた、出生数を比較してみた1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。この比較によって、出生数は第一期よりもむしろ第二期の方が少く、そして(第二期における若干の遺漏と第三期における若干の重複を仮定した上で)第三期における出生数もまた第二期より少いことを見出して、彼は、一五五〇年以来この国が引続き人口が減退したことに対する証拠は、議論の余地なき正しいものと考えたのである。
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 1)[#「1)」は縦中横] 〔Me'moires, etc., par la Socie'te' Economique de Berne. Anne'e 1766, premie`re partie, p. 15 et seq. octavo. Berne.〕
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 右の前提をすべて認めても、その結論はおそらく彼が想像したほど確実ではない。すなわち、彼れの報告に現われている他の事実からして、私は、スイスはこの期間には、前章で想像した場合に該当するのであり、従って慎慮や清潔等に関する人民の習慣の改善がこの国の一般的健康性を徐々として増大するに至ったのであり、また彼らをしてその子供のより[#「より」に傍点]多くを成人に達するまで養育し得せしめることにより、より[#「より」に傍点]少数の出生をもって必要な人口を供給するに至ったのである、と信ぜざるを得ないのである。云うまでもなく、年出生の総人口に対する比率は、おそい時期の方が昔よりも低かったであろう。
 ミウレ氏の正確な計算から見ると、最終期中には死亡率は異常に低く、かつ嬰児期から青春期まで育つ子供の比率は異常に高かったことが、わかる1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。前二期においてはこれは決して同一程度ではあり得なかったであろう。ミウレ氏自身、『この国の昔の人口減退は、往時しばしば人口を荒廃せしめた頻々たる疫病《ペスト》に帰せらるべきである』と云い、更に『かかる恐るべき災厄が頻々と起っているのになおそれが存続し得たとすれば、それは気候が良く、またこの国がその人口を即刻恢復するために供し得るある資源のあったことの、証拠である』と附言している2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。彼は当然この観察を適用すべきであるのに、これを怠り、そしてかかる即刻の人口恢復は異常の出生増加なくしては起り得ないということを忘れ、かつ、かかる破壊源泉に対して国が自己を維持することが出来るのを可能ならしめるためには、出生の総人口に対する比率が他の時代よりも大であることを要するのを、忘れているのである。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. table xiii. p. 120.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. table xiii. p. 22.
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 彼はその表の一つで一三一二年以来スイスで流行した疫病《ペスト》全部の表を示しているが、それによれば、第一期の全部を通じてこの恐るべき天刑は短い間隙をおいてこの国を荒廃し、そして第二期の終末に至る二二年以内にまでその時折りの暴威を振ったのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. table iv. p. 22.
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