傍点]と呼ぶべきものである、と彼は云い、そして彼はその結果として生じなければならぬ必然的不可避的な不幸を痛感するの余り、男子が四十歳まで結婚することを禁じ、そして四十歳になった時には、六人や八人も子供を産まないで、二人か三人しか産まない『老嬢[#「老嬢」に傍点]』とだけ結婚を許す法律が、制定さるべきである、と考えているのである。
私は、彼がこの問題を論じた真面目さ、ことにその結論の提案には、感心せざるを得なかった。彼は過剰人口から起る窮乏を非常に強く目に見、体験したからこそ、かかる過激な救治策を提案したのに違いない。訊ねてみたら、彼自身非常に早婚をしたことがわかった。
この問題に関する理論的知識の点で、彼が誤を犯した唯一の点は、その推理を余りにも不毛な山勝《やまがち》な地方に限定しすぎ、それを平野にまで及ぼさなかったことにあった。おそらく彼は、肥沃な所では、穀物や仕事が豊富なので、この困難は除去され、そして早婚が許される、と考えたのであろう。平野にそれほど住んだことがないので、彼がこの誤に陥ったのは当然であった。ことにこの平野では、この難点は、啻に問題の範囲が広汎であるため、いっそう隠蔽されるばかりでなく、また実際にも低湿地や都市や工場により当然に生ずるより[#「より」に傍点]高い死亡率によって、より[#「より」に傍点]小さくなっているのである。
彼がその国の優越的悪習と名づけたところのものの主たる原因について質問したところ、彼は理論的に非常に正確にそれを説明した。彼は曰う、石磨き工業が数年前に始まり、これは一時繁昌を極め、附近全体に高い労賃と職業を与えた。家族を養う便宜と子供達に早くから職業を見出すの便宜とは、早婚を大いに奨励した。そしてこの習慣は継続していったが、そこへ流行の変化や偶発事やその他の原因が起って、この工業はほとんど駄目になってしまった、と。彼はまた、近年非常に大きな移民が行われているが、しかしこの増殖法が極めて迅速に進むので、移住も国の過剰人口を解決するに足らず、その結果は彼が私に述べた如き、また私も一部分は目撃した如き、状態となったのである、と述べた。
その他、スイス及びサヴォイの諸地方の下層社会の者と話したときにも、その多くの者は、ジュウ湖の友人の如くに人口原理が社会に与える影響を理解するほどこれに精通してはいなかったけれども、しかも彼
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