れ、また両性の結合が一般にあまりに早く行われれば、女性の生殖力は減殺されるであろう。一妻よりも多妻の場合の方が一般であるが、しかし驚くべきことには、コリンズ氏は二人以上の子供のある場合は一度以上は思い出せないのである。彼はある土人から第一の妻は夫婦関係の独占権を有つものとされているが、第二の妻は単に両人の奴隷であり召使に過ぎない、と聞いたのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 560.
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夫婦関係に対し第一の妻が絶対独占権を有つということはありそうもないことである。しかし第二の妻がその子供を育てることを許されないということは、あり得ることである。とにかく、もし右のことが一般的に正しいとすれば、多くの女には子供がないのであり、これは、彼女らの激しい苦難、またはコリンズ氏には知られなかったある特別な習慣に起因するものであることを、証明するものである。
もし乳児の母が死ねば、この頼りなき幼児は生きたまま母と同じ墓に埋められる。父親自身が生きている子供を母の死骸の上に置き、それに大きな石を投げ込むと、他の土人がすぐ墓を埋めてしまうのである。我国の移住民によく知られているコーレーベーという土人が、この恐ろしい行為をしたが、彼はこのことを訊ねられたときに、この子供を育てる女はどこにも見出すことは出来ず、従ってこうして死を与えなければもっとひどい死に方をしなければならないはずだと云って、その行為を弁解した。コリンズ氏は、この風習は一般に行われていると信ずべき理由があると云い、それがある程度人口の稀薄の理由をなすものであろう、と云っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き、「1」が底本では欠落]。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 607.
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かかる習慣は、それ自身としてはおそらく一国の人口に大きな影響を与えるものではなかろうが、蒙昧人の生活で子供を育てることの極めて困難なることをよく物語るものである。その生活習慣上絶えず居住を変え、その夫のために絶えず苦役に服せざるを得ない女は、ほとんど同じ年頃の二三人の子供を育てることは絶対に出来ないように思われる。上の子供が独り立が出来て母に歩いてついて行けるようになる前に、もう一人子供が出来れば、世話が行届かずに二人の中一人はほとんど必然的に死ななければならない。このような放浪的な苦労の多い生活では、たった一人の子供でさえこれを育てることは非常に厄介な苦しい仕事に相違ないのであるから、母たるの強い感情に刺戟されないくらいの女でそれを引受けるもののあり得ないのは、驚くに当らぬことである。
生れて来る人間を力ずくで抑圧するこれらの原因の外に、なお結果においてこれを殺すに寄与する原因を挙げなければならぬ。すなわちこれら蒙昧人の他の種族との頻々《ひんぴん》たる戦争と相互間の不断の闘争、深夜の殺人を促がししばしば無辜《むこ》の流血を惹き起す不思議な復讐心、醜悪な皮膚病を発生させるような彼らのみじめな住居の煤や汚物、及びあわれな生活様式、なかんずく多数の人間を一掃する天然痘の如き恐るべき伝染病がこれである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] See generally, the Appendix to Collins's Account of the English Colony in New South Wales.
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一七八九年に彼らはこの悪疫に見舞われたが、これは天然痘の一切の特徴と猛烈さとをもって、彼らの間に猖獗《しょうけつ》を極めた。それがもたらした荒廃はほとんど信じ得ないほどである。彼らが最も姿を見せた湾や渡場には、ただの一人も生きた人間は見られなかった。砂上にはただの一つの足跡でさえ認められなかった。死骸は更に死骸で蔽われた。岩間の穴は腐った屍体で満たされ、また多くの地方では道は骸骨で蔽われた1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 597.
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コリンズ氏は上述のコーレーベーの種族は、この恐るべき病気の結果、たった三人になってしまい、この三人は全滅を免れるため他の種族と合体せざるを得なかった、と聞いたのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 598.
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かかる人口減退の有力な原因があるのであるから、吾々
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