いて行けるようになる前に、もう一人子供が出来れば、世話が行届かずに二人の中一人はほとんど必然的に死ななければならない。このような放浪的な苦労の多い生活では、たった一人の子供でさえこれを育てることは非常に厄介な苦しい仕事に相違ないのであるから、母たるの強い感情に刺戟されないくらいの女でそれを引受けるもののあり得ないのは、驚くに当らぬことである。
 生れて来る人間を力ずくで抑圧するこれらの原因の外に、なお結果においてこれを殺すに寄与する原因を挙げなければならぬ。すなわちこれら蒙昧人の他の種族との頻々《ひんぴん》たる戦争と相互間の不断の闘争、深夜の殺人を促がししばしば無辜《むこ》の流血を惹き起す不思議な復讐心、醜悪な皮膚病を発生させるような彼らのみじめな住居の煤や汚物、及びあわれな生活様式、なかんずく多数の人間を一掃する天然痘の如き恐るべき伝染病がこれである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] See generally, the Appendix to Collins's Account of the English Colony in New South Wales.
[#ここで字下げ終わり]
 一七八九年に彼らはこの悪疫に見舞われたが、これは天然痘の一切の特徴と猛烈さとをもって、彼らの間に猖獗《しょうけつ》を極めた。それがもたらした荒廃はほとんど信じ得ないほどである。彼らが最も姿を見せた湾や渡場には、ただの一人も生きた人間は見られなかった。砂上にはただの一つの足跡でさえ認められなかった。死骸は更に死骸で蔽われた。岩間の穴は腐った屍体で満たされ、また多くの地方では道は骸骨で蔽われた1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 597.
[#ここで字下げ終わり]
 コリンズ氏は上述のコーレーベーの種族は、この恐るべき病気の結果、たった三人になってしまい、この三人は全滅を免れるため他の種族と合体せざるを得なかった、と聞いたのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
 1)[#「1)」は縦中横] Id. Appen. p. 598.
[#ここで字下げ終わり]
 かかる人口減退の有力な原因があるのであるから、吾々
前へ 次へ
全195ページ中30ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
吉田 秀夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング