謔閨m#「より」に傍点]少い労働が必要になり、あるいはまたこれらの原因が同時に作用したために、一頭の鹿が三匹の鮭の価値を有つようになることもあろう。もし吾々がこの不変的標準を有つならば、吾々は容易に、これの諸原因のいずれがいかなる程度に作用したかを確め得るであろう。もし鹿が三|磅《ポンド》に騰貴したのに鮭が引続き一|磅《ポンド》で売れるならば、吾々は、鹿を捕獲するのにより[#「より」に傍点]多くの労働が必要になったのである、と結論し得よう。もし鹿は二|磅《ポンド》という同一の価格を続け、そして鮭は十三シリング四ペンスで売れたならば、吾々は、鮭を得るのにより[#「より」に傍点]少い労働で足るものと確信し得よう。またもし鹿は二|磅《ポンド》一〇シリングに騰貴し、鮭は一六シリング八ペンスに下落したならば、吾々は、これらの貨物の相対価値の変動を生ずるに両方の原因が働いたものと信ずるであろう。
 労働の労賃におけるいかなる変動も、これらの貨物の相対価値の変動を生み出し得ないであろう、けだし、それが騰貴したと仮定しても、これらの職業のいずれにおいてもより[#「より」に傍点]大なる労働量が必要になったのではなく、労働がより[#「より」に傍点]高い価格で支払を受けるのに過ぎず、そして狩猟者及び漁夫をしてその獣及び魚の価値を引上げんと努力せしめると同一の理由が、鉱山の所有者をしてその金の価値を引上げようとさせるであろうから。かかる誘引はすべてのこれら三つの職業において同一の力をもって働き、そしてそれに従事する者の相対的地位は、労賃の騰貴の前と後とで同一であるから獣と魚と金との相対価値は引続き変らないであろう。労賃は二〇%騰貴し、利潤はその結果それ以上または以下の割合で下落するであろうが、これらの貨物の相対価値には少しも変動が起らないのである。
 さて、同一の労働と固定資本とをもって生産し得る魚は増加するが、しかし金または獣は増加しないと仮定するならば、魚の相対価値は金または獣に比較して下落するであろう。もし、二十匹の鮭ではなく二十五匹が一日の労働の生産物であるならば、一匹の鮭の価格は一|磅《ポンド》ではなく十六シリングとなり、そして、二匹の鮭ではなくて二匹半の鮭が一頭の鹿と交換して与えられるであろうが、しかし鹿の価格は以前と同様に引続き二|磅《ポンド》であろう。同様に同一の資本及び労働をもって獲得し得る魚が減少するならば、魚は比較価値において騰貴するであろう。かくて魚は、その一定量を得るのにより[#「より」に傍点]多くのまたはより[#「より」に傍点]少い労働が必要とされるという理由のみによって、交換価値において騰落するであろう。そしてそれは、必要な労働量の増加または減少の比例以上には決して騰落し得ないであろう。
 かくてもし吾々がそれによって他の貨物における変動を測り得る不変の標準を有っているとするならば、貨物が、仮定にあるような事情の下において生産されるとした時に、それらの貨物が永続的に騰貴し得る最高限度は、その生産に必要とされる附加的労働量に比例し、かつより[#「より」に傍点]以上の労働がその生産に必要とされない限り、それはいかなる程度にも騰貴し得ないことを、見出すであろう。労賃の騰貴は、貨物を、貨幣価値においても、またその生産に何らの附加的労働量を必要とせず、かつ同一比例の固定資本及び流動資本を、また同一耐久力の固定資本を、使用した所の、ある他の貨物との比較においても、その価値を騰貴せしめないであろう。もし他の貨物の生産により[#「より」に傍点]多くのまたはより[#「より」に傍点]少い労働が必要とされるならば、吾々の既に述べた如く、このことは直ちにその相対価値に変動を惹起すであろうが、しかしかかる変動は必要労働量の変動によるものであって、労賃の騰貴によるものではないのである。

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第四節 貨物の生産に投ぜられた労働の分量がその相対価値を左右するという原理は、機械その他の固定的かつ耐久的な資本の使用によって著しく修正される。
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(一七)前節においては、吾々は、鹿及び鮭を殺すに必要な器具及び武器の耐久力は等しく、かつ同一労働量の結果であると仮定し、そして鹿及び鮭の相対価値における変動は、一にそれを獲得するに必要な労働量の変動に依存するものであることを見た、――しかし社会のあらゆる状態においては、種々なる事業に用いられる道具や器具や建物や機械は、耐久力の程度を異にし、そしてそれを生産するに種々異った労働量を必要とするであろう。労働を支持すべき資本と、道具や機械や建物に投下される資本との比例もまた、種々異って組合わされるであろう。固定資本の耐久度におけるかかる相違、及び二種類の
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