サの一つとして、彼は、フロリダの蒙昧人の間でほとんど九年も住んだスペインの探検家の一人、アルヴァル・ヌウニェス・カベサ・デ・ヴァカの書いている記述を述べている。彼は、この蒙昧人は、あらゆる種類の農業を知らず、主として各種の植物の根を食べて生きているが、これを得るのは非常に困難であり、それをたずねてあちらこちらとさまよう、と云っている。時には彼らは鳥獣を殺し、時には魚を取るが、その量は極めて少く、従って彼らは、飢餓の余り、蜘蛛、蟻の卵、芋虫、とかげ、蛇、及び一種の滑土を喰うの止むなきに至る。そこで――と彼は云う――この国に石があったなら、彼らはこれを呑んだことだろうと思う、と。彼らは魚や蛇の骨を貯えておき、これを粉にして食べる。彼らがそれほど飢餓に悩まないのは、オプンチアすなわちさぼてんの実が熟する季節だけである。しかし彼らはこれを探すためには、時にその通常の居住地から遠くまで旅行しなければならない。他の場所で、彼は、土人はしばしば食物なしに二、三日を過さざるを得ない窮状にある、と述べている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Robertson, note 28 to p. 117, b. iv.
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 エリスは、そのハドソン湾航海記において、その近隣のインディアンが極度の欠乏に悩んでいる有様を、悲痛な語調で述べている。気候の厳しいことを述べた後、彼は曰く、『厳しい寒さから生ずるこれらの困難が大であるとはいえ、それは食糧の不足とそれを獲得する困難よりははるかに劣る、と正当に云い得よう。工場で話されておりかつ本当のことだと知られている一つの物語は、十分にこのことを証明し、そして憐み深い読者にこれらの不幸な人が曝されている窮状を正しく察せしめるであろう。』それから彼は、一人の貧しいインディアンとその妻のことを述べているが、彼らは狩猟がうまくいかないため、衣服として着ていたすべての皮を食った後、その子供の二人の肉を食ってしまうという恐るべき行為に追いつめられたのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き、「1」が底本では欠落]。他の場所では彼は曰く、『夏に、取引に工場へやって来たインディアンは、期待していた後援が来ないので、数千枚の海狸の皮の毛を焼き取らざるをえないことが、時々あった2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Robertson, p. 196
 2)[#「2)」は縦中横] P. 194.
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 蒙昧生活と文明生活との比較において絶えず最も矛盾した推理を行っているレイナル僧正は、ある場所で、蒙昧人は間違いなく適当な生活資料を得ていると云いながら、しかもカナダの民族について記しているところでは、彼らは鳥獣や魚の豊富な国に住むにもかかわらず、ある季節には、また時には一年中、この資源を得られないと述べ、かくて生ずる飢饉は、余りに相互に離れ合っているので助け合うことの出来ないこれら人民の間に、大きな破滅をもたらす、と云っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Raynal, Histoire des Indes, tom. viii. l. xv. p. 22.
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 シャルルボワは宣教師が蒙る不便と窮状とを述べているが、その中で、彼がこれまで述べた害悪よりももっと大きな害悪が一再ならず起るが、それに比べれば一切の他のものは何でもないと云わねばならぬ、と云っている。これは飢饉である。なるほど――と彼は云う――蒙昧人がその飢餓に堪える忍耐力は、飢餓に対する不用意と匹敵するが、しかし彼らは時にその維持能力以上のひどい目にあうのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Hist. N. Fr. tom. iii. p. 338.
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 アメリカ土人の大部分では、農業上若干進歩しているものでさえ、一年のある季節には森林の中に散らばり、一年の食料の主要部分として狩猟の獲物で数ヵ月暮すのが、一般の習慣である1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。その部落に残っていれば彼らは確実に飢饉に会わなければならぬが2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、森林へ行ったからとて、必ずしもそれから確実に免れるとはきまっていない。鳥獣に不足のないところですら、最も優れた猟人でさえ時に獲物の得られぬことがある3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。しかもこの獲物のないときには、狩猟者や旅行者は、森林の中で最も惨酷な欠乏に曝されるのである4)
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